縄田 全甫(まさとし)氏
農業家

 山口県宇部市の岡崎八幡宮では、全国の神社で4社のみに許可された清酒の醸造を行っています。その原料となるお米は古代米が使われ、岡崎八幡宮の清酒造りには欠かすことの出来ないお米です。その古代米もまた同じ船木の地で栽培されています。
 現在、このお米を生産しているのは、農業家の縄田全甫(まさとし)さん。一般的な現代のお米に比べ、栽培にはご苦労もあるようですが、お会いしてお話を伺いましたので、調べたことを交えながら紹介いたします。

古代米と岡崎八幡宮の酒造り

 この船木周辺は、神功皇后伝説が色濃く残る地域です。かつて、この地を訪れた皇后は稲作を習い自ら苗を植え、その際に行われた御神酒造りが岡崎八幡宮の酒造に繋がっているとの言い伝えがあります。その製法は室町時代のものとされ、原料の古代米もまたその当時から受け継がれているとの事です。
 現在、神社での酒造りは、酒造会社と同様に酒税法に応じた醸造免許が必要です。年間の最低製造見込数量などの制約もあり、小規模な醸造では大きなハードルとなります。一方、地域の伝統維持などを目的とした特例もあるようで、以前お会いした岡崎八幡宮の宇津見宮司のお話では、この古代米を使っているからこそ醸造の許可が下りているのだろうとのことでした。

古代米の栽培

 古代米の栽培は、縄田さんのお話では手間がかかり大変とのことです。古より種籾が受け継がれてきたままの古代米は、品種改良を重ねてきた現代のお米とは異なり、その生育には大きな違いがあるようです。
【1】成長が早い

 古代米は成長が早く、他のお米と同じ5月頃に植えると盆過ぎには稲刈りが出来ます。一般的なお米の収穫が9月〜10月であり、他のお米に実がつかない頃に実を付けるため、スズメが群がり、しっかりと対策をしなければ収穫ができなくなるとのことでした。
【2】背丈が高く折れやすい

 古代米の稲の背は、人の身長ほども伸びるそうです。しかも、茎にしなりがないため風や雨で簡単に倒れてしまいます。一度倒れると倒れっぱなしとなり、機械が使えずに一つひとつ手刈りで稲を刈らなければなりません。
【3】収穫量が少ない

 古代米は株張りが少ない上に、実が十分に熟していない粃(しいな)も多いため、沢山のお米は収穫できないとのことです。縄田さんが栽培している古代米の田圃は二畝(ふたせ、約200㎡)程度で、収穫は30kg程。一般的なお米では同程度の広さで約90kgを収穫しているそうで、古代米は3分の1程度の収量でしかありません。
 そのように栽培に手間がかかり収量も少ない古代米ですが、苗床で少し消毒をする以外は無農薬にこだわり育てているとのことです。縄田さんが、いかに手間暇かけて栽培されているかを知ることができます。

古代米の品種

 酒米の王様とされる山田錦はうるち米です。縄田さんが栽培される古代米は、詳しい品種までは分からないそうですが、分類としてはもち米になるようです。
 この古代米、現代のお米との味の違いが気になり、2、3粒頂戴して食してみました。意外にも日常食べているお米との違いを感じることはありませんでしたが、ご飯として炊くとその味の差は歴然だそうです。美味しくないそうです。「美味しい」という言葉を期待しましたが、品種改良されてきたお米には敵わないのかもしれません。しかし、山田錦も甘味が少なく飯米にはあまり適さないと聞いたことがあり、古代米も現代の酒米も、酒造りの原料としては、通じるものがあるかもしれません。

地域の食育活動

 この地域の小学校では、食育活動の一環として稲作を行なっています。田圃を使い、2023年に初めてこの古代米による稲作に挑戦しました。残念ながら、この年はスズメの被害を受け全滅してまったそうですが、2024年もまた生育方法を見直し古代米の栽培を行うとのことです。そして縄田さんは、今年は僅かな種籾しか渡せていなかったため、来年に向けては多くの種籾を確保しているとのことでした。
 こうした学校の食育活動を通じて、子供たちが地域の古代米作りを知るきっかけになってくれることを、縄田さんは喜んでおられるようです。

古代米作りのこれから

 岡崎八幡宮のお役に立てればとの思いから、縄田さんはそれまでの古代米の生産者から引き継ぎ生育を行うようになりました。栽培を始めて約10年、これからも奉納できるよう作り続けていきたいとのことです。
 一方で、古代米の栽培目的として、岡崎八幡宮に奉納する以外
考えていないとのことでした。古代米が儲けに繋がることは想像に難しく、何かアイデアがあれば教えて欲しい、古代米を栽培したい人がいるなら幾らでも教えるとお話されていました。
 また、学校で取り組まれている食育方活動に対しては、期待を持たれています。地域で古代米が栽培されていることを、子供たちが知る機会として、どんどん行って欲しいとおっしゃっていました。

最後に

 古代米は、岡崎八幡宮の酒造りの製法とともに室町時代から伝えられたものとされています。そのため両者を切り離すことは難しく、岡崎八幡宮の酒造を維持するためにも、古代米の栽培は重要だと言えます。
 そのような古代米は、縄田さんが岡崎八幡宮への奉納のみを目的として、手間暇かけながら無償で栽培しています。宗教的な行為への関心が薄れている今の時代においても、この精神が大切にされ、古代米の栽培が受け継がれていくことを期待したいと思います。


《古代米とは》
 古代米の定義は曖昧ですが、一般的には古代から栽培されていた品種で、その特色を色濃く残すお米とされています。全体的に稲の草丈が高く収穫量が少ない傾向にあり、赤米、黒米、緑米などの色や香りを持ったお米もあります。特に有色米では現代の白米に比べて栄養価が高く健康や美肌効果などもあるとされています。
 また、古代米の稲作は、その品種が持つ特徴から低肥料・低農薬で栽培される傾向にあり、環境に優しく、さらに地域に受け継がれてきた伝統を守るといった側面もあります。