藤村光昭 氏
曹洞宗 瑞松庵 住職

 散策を楽しみながら、ふとお寺や神社を見つけると立ち寄ってみたくなることはありませんか? 境内に足を踏み入れ手を合わせると、清々しさや穏やかな気持ちとともに、訪れた場所の歴史や文化に触れられたようにも感じます。
 山口県宇部市の船木地区にも、そのような訪れたくなるお寺があります。600年も前から続く「瑞松庵(ずいしょうあん)」。小柄ながらも堂々たる茅葺き屋根の山門を構え、人々が集う憩いの場として地域で親しまれています。
 その瑞松庵住職の藤村光昭氏にお話を伺いましたので、学んだ事を交え紹介します。

茅葺き屋根の山門

 瑞松庵にある茅葺き屋根の山門は、桜にツツジなど花木の美しい参道や綺麗に手入れされた庭園と調和し、心落ち着く趣があります。また、境内から眺める山門の先には、疾走する新幹線を見ることができ、その共演を楽しむこともできます。そのため、桜のシーズンには多くの方が撮影に訪れる場所となっています。
 この山門は、2020年4月に葺き替えられました。10~15年ごとに葺き替えが必要な茅葺きに対して、毎回、周囲からは耐久性の高い瓦への提案があるとのことです。藤村住職は「人々の集いの場としてのお寺を目指し、そのシンボルとして山門を守りたい、そのために茅葺きを維持したい」との思いから、茅による葺き替えを決断し、将来に渡って大切に受け継がれていくことを望んでいます。

瑞松庵と地域への活動

 瑞松庵では、人々に開かれたお寺を目指し、様々な取り組みを行ってきました。

  • お寺でのマルシェを2017年より開催し、地元や県内の飲食店やハンドメイド作家、工芸作家などによる販売・体験コーナー、音楽ステージでの演奏などが催されました
  • また、数百個もの竹灯籠(たけとうろう)で山門や庭園を照らして幻想的な雰囲気を演出する「竹灯籠の夕べ」
  • 地元を知ってもらうため、工芸品である箏の演奏体験や、赤間硯の墨によって描くブックカバーやうちわの制作、子供たちによる神功太鼓の披露など
  • その他、坐禅や写経・写仏などは毎月定期的に開催し、お寺カフェやヨガを開催することもありました

 藤村住職のお話では、「お寺だけで催す座禅や写経などは、まだまだお寺の敷居が高いと感じる方も多いが、マルシェや音楽イベントは遊び感覚で参加できるため多くの方に来ていただける」とのことです。

課題と将来への取り組み

 「自分たちの子供のころ楽しみであったお祭りが、子供も少なくなり昔のような規模で開催することは難しくなっている」という現実に対して、藤村住職は「子供たちが楽しめる場はこれからも作り続けていくべきであり、それをマルシェなどのような催しの形ででも受け継ぎ存続していきたい」との強い思いを持たれています。
 また「瑞松庵が、お寺を通して地元のことを知ってもらう場になると嬉しい」との気持ちもお持ちです。「瑞松庵に足を運ぶことでお寺や地域を知ってもらい、地元にも『誇れるものがあるんだ』ということを見つめ直す機会になって欲しい」、そのために「しっかりPRしていきたい」とも情熱的にお話しされていました。地元を離れた方々に対しても「地元から出た人の帰る場所がなくなるのは寂しく、瑞松庵が人々の帰る場所として存続し続けたい。だからこそ、いまある形で繋げていかなければならない」との思いもお聞きすることが出来ました。
 藤村住職の思いとして、「茅葺き屋根の山門は、そのようなシンボルとして『船木の宝』になって欲しい」そのために「みなさんに大事に守り続けていくという思いを持って貰えると嬉しい」との期待をお持ちです。そして、みんなが「この山門を守り続けていきたい」と感じられるモチベーションの醸成に繋げたいとの考えから、「茅葺き屋根の山門」を国の登録有形文化財に申請し、2021年2月に指定されました。

最後に

 現在の日本では、人口減少や都市部への人口流出などにより、地方経済の疲弊やコミュニティの維持、文化の継承などが難しくなっています。そのような中、藤村住職を始めとする方々のように、地域を盛り上げ、人々を楽しませ、将来へ受け継ぐことに尽力されている方がいらっしゃいます。私たちが何気なく参加し楽しんでいるお祭りや文化・歴史・自然などとの触れ合い、そして帰る場所があることは、そこに携わる方々の恩恵によるものだと改めて感じさせられます。


《瑞松庵について》
 瑞松庵は、約600年前の室町時代に、曹洞宗の寺院として山陽道の宿(しゅく)であった船木の地に創建されました。
 開山の石屋眞梁(せきおくしんりょう)禅師の他、2世、4世も薩摩の人で、4世仲翁守邦(ちゅうおうしゅほう)禅師については島津家7代当主元久公の嫡男でした。そのため、寺紋は島津家の家紋(◯に+)であり、山門の回縁や本堂の屋根瓦、六地蔵などにその紋を見ることが出来ます。
 また、毛利家家臣の内藤元盛一族のお墓や維新後の女子教育の先駆者であった毛利勅子(もうりときこ)の石碑を始め多くの史跡を見ることも出来ます。

《船木地区について》
 この船木は、江戸時代には殿様や大名が宿泊する宿場町の本宿として栄え、また、藩内統治の行政機関である宰判勘場(さいばんかんば)も置かれたことから、この界隈(現在の宇部市・山陽小野田市一帯)の中心地でもありました。現在の中心は、南の瀬戸内海沿岸へ大きく移動したものの、いまも残る古い町並みに、かつて宿場町であった面影をしのぶことが出来ます。
 瑞松庵は、この旧宿場町の西端から歩いて約10分のところにあります。
 因みに、司馬遼太郎の小説「世に棲む日日」にもこの地名が登場し、幕末、世子(せいし)の毛利元徳公が駐在して、英・仏・蘭・米と交戦した下関戦争の講和の指揮をとった地でもあるそうです。

《瑞松庵の定期的な催しと連絡先》
座禅会 毎月第2・第4土曜日 6:00~
写経会 毎月第4木曜日 14:00~
(※座禅体験・写経体験は、ご連絡をいただければいつでも対応可能とのことです)
TEL:0836-67-0163
FAX:0836-67-2618